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横浜地方裁判所 昭和52年(ワ)2063号 判決 1986年7月09日

原告

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右指定代理人

井上弘幸

外五名

原告補助参加人

中央産業株式会社

右代表者清算人

松本忠一

被告

有限会社富士工務店

右代表者代表取締役

水谷寿恵男

右訴訟代理人弁護士

柏木博

岩瀬外嗣雄

外池泰治

主文

一  被告は原告に対し、金二一三九万二五〇〇円及びこれに対する昭和四九年一一月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  参加により生じた訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一、二項と同旨

2  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  補助参加人中央産業株式会社(以下「中央産業」という。)は、昭和四十七、八年当時、不動産仲介、売買等を業とする株式会社であり、被告は不動産仲介等を業とする有限会社である。

2  原告は、中央産業に対し、昭和四九年四月二三日現在、既に納期限を経過した別表(一)記載の租税債権(以下「本件租税(一)債権」という。)を、また、同年一一月二五日現在、同債権の外、同表(二)記載の租税債権(以下「本件租税(二)債権」という。)をそれぞれ有していたが、中央産業は、同五二年三月一一日、本件租税(一)債権と、同租税(二)債権の一部を納付したのみで、同年一〇月三一日現在においても、同租税(二)債権につき、同表(三)記載のとおり滞納していた。

3(一)  中央産業は、昭和四七年四月二七日、被告との間において、同日付の覚書と題する書面(甲第七号証)(以下「本件覚書」という。)をもつて、茅ケ崎市茅ケ崎字小井戸及び同所字鶴田(以下、単に、それぞれ「小井戸」、「鶴田」とのみ表示する。)所在の別紙土地目録記載の各土地外二八筆合計九四八九坪の土地(以下「本件買収予定地」という。)につき、中央産業が右土地の所有者からこれを買収した場合には、被告が中央産業から、要旨左記の約定で、右買収に係る土地を順次買い受ける旨の契約を締結した(以下「本件売買基本契約」という。)。

(1) 代金額 三・三平方メートル当たり七万円

(2) 代金支払方法 右代金額のうち六〇パーセントを売買契約時に、同四〇パーセントを右契約時から六か月後にそれぞれ支払う。

但し、被告は、各土地所有者に対して直接代金の支払をし、中央産業に対し、差額を支払うものとする。

なお、右(2)の代金の支払方法は、同年五月末日ころ、全額一括払いに変更された。

(二)  中央産業は、本件売買基本契約に基づき、別紙一覧表(以下「一覧表」という。)1ないし24記載の土地(以下「本件各土地」又は、土地目録及び一覧表記載の番号に従い、例えば「本件1土地」と表示することがある。)合計三九三五坪につき、それぞれ、一覧表②欄記載の各土地所有者から、同表⑥欄記載の価額で買収したうえ、被告に対し、本件各土地を、それぞれ、同表④欄記載の日に、同表⑤欄記載の価額で売却し(以下「本件各売買契約」という。なお、本件各売買契約に基づく同表⑦欄記載の代金差額請求権を「本件差額代金債権」ということがある。)、これを引き渡した。

(三)  そのため、中央産業は被告に対し、本件各土地の売買代金総額二億七五四五万円の代金債権を有するに至つたが、被告は、同土地所有者に対し、中央産業が同土地所有者に対して支払うべき一覧表⑥欄記載の同土地買収代金価額相当額総額二億四一一五万七五〇〇円を直接支払つたものの、中央産業に対しては右差額のうち一二九〇万円を支払つたのみであつて、残額二一三九万二五〇〇円の支払をしていない。したがつて、中央産業は被告に対し、右同額の差額残代金請求権を有する(以下「本件差額残代金債権」という。)。

4(一)  仮に、本件売買基本契約が認められないとしても、被告は、中央産業との間において、昭和四七年四月二七日、本件買収予定地の買収の仲介を依頼し、その報酬として、買収土地の面積に三・三平方メートル当たり七万円を乗じた額と当該土地の買収価額との差額を支払う旨の契約を締結した(以下「本件仲介基本契約」という。)。

(二)  中央産業は、一覧表④欄記載の日に、同表⑥欄記載のとおり、被告と本件各土地所有者との間の売買契約を順次あつ旋して同表⑤欄記載の売買価額で成立させ(以下「本件各仲介契約」という。)、同表⑦欄記載の額と同額の合計金三四二九万二五〇〇円の報酬債権(以下「本件報酬債権」という。)を取得した。しかし、被告は中央産業に対し、本件報酬債権のうち、一二九〇万円を支払つたのみで、残額二一三九万二五〇〇円の支払をしない。したがつて、中央産業は被告に対し、右同額の報酬残債権を有する(以下「本件報酬残債権」という。)。

5  原告(所管庁大森税務署長)は、昭和四九年一一月二五日、本件租税(二)債権に基づき、第一次的に本件差額残代金債権を、第二次的に本件報酬残債権を、国税徴収法六二条により差し押え、右債権差押通知書は、同月二七日、被告に送達された。これにより、原告は、同日、同法六七条により、右債権の取立権を取得し、本件租税(一)債権が全額納付された同五二年三月一一日後においても、右差押に基づき、本件租税(二)債権の取立権を有するものである。

なお、大森税務署長は、昭和四九年一二月二四日、東京国税局長に対し、国税通則法四三条三項に基づき、徴収の引継ぎをしたため、以後、徴収の所轄庁は同局長となり、現在に至つている。

6  よつて、原告は被告に対し、主位的に本件差額残代金債権のうち金二一三九万二五〇〇円、予備的に本件報酬残債権のうち右同額、及びこれに対する弁済期後であり、かつ債権差押通知書到達の日の翌日である昭和四九年一一月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実は不知。

3(一)  同3項の事実のうち、(一)は否認する。被告は中央産業との間で、原告主張の日に本件覚書を取り交し、右覚書には原告主張のような文言が記載されているが、右覚書を取り交した目的は、要するに、本件買収予定地のいわゆる地上げにあつたのであるから、右合意の実質は、被告と本件買収予定地の所有者との間で同土地の売買の仲介またはあつ旋をすることを内容とするものであり、売買契約ではない。

(二)  同項(二)の事実のうち、被告が、中央産業との間で、本件各土地のうち、左記以外の各土地につき、原告主張の一覧表①ないし⑤欄記載の取引をしたことは認め、その余は否認する。

すなわち、被告は、左記の各土地を当該土地所有者から直接買い受けたものであつて、中央産業が仲介等により介在する余地はない。

(1) 本件10土地(小井戸五四五番一)所有者鈴木トキ

(2) 本件11ないし13土地(小井戸五二一番、五三八番一、五四五番二)所有者渋谷亀雄

右各土地については、訴外殖産住宅株式会社(以下「殖産住宅」という。)の仮登記があり、右仮登記に係る権利については、被告が直接交渉をしてこれを買い受けたものであるから、中央産業の報酬請求権は発生していない。

(3) 本件21ないし23土地(小井戸五一〇番、五四三番、五四四番)所有者原武

(三)  同項(三)の事実のうち、被告が、本件各土地所有者に同表⑥欄記載の各金員を支払つたことは認め、その余は争う。

4(一)  同4項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)の事実のうち、前項(二)(1)ないし(3)記載の各土地につき、中央産業がその売買をあつ旋したこと及び被告の中央産業に対する弁済額が一二九〇万円にすぎないことは否認し、その余は認める。右各土地については、前項記載のとおり、被告が直接買収したものである。

5  同5項の事実のうち、原告主張の差押通知書がその日に到達したことは認め、その余は不明。

6  同6項は争う。

三  抗 弁

1  中央産業は、宅地建物取引業法による東京都知事の許可を受けずに本件各売買契約又は同各仲介契約を業として行つたものである。

よつて、中央産業の右行為は、公序良俗に反し、無効であるから、中央産業は被告に対し、本件差額残代金債権又は同報酬残債権を有しない。

2(一)  被告は、中央産業との間において、昭和四七年六月末日ころ、本件売買基本契約又は同仲介基本契約を解除する旨合意した(以下「本件合意解約」という。)。

(二)  本件合意解約に至つた事情は次のとおりである。被告は、訴外大成プレハブ株式会社(以下「大成プレハブ」という。)からマンション建設用地とすることを目的として、本件買収予定地の地上げを依頼されたものであり、後記のとおり、中央産業は、右目的に従い、一定期限内に一定の面積以上の土地を一括して買収する必要があつたにもかかわらず、これをなしえなかつたため、被告と中央産業とは、一旦本件売買基本契約又は同仲介基本契約を白紙とする趣旨で、これを解約するに至つたものである。

(三)  なお、被告は、本件合意解約の際、中央産業との間において、右解約後に、中央産業が、本件買収予定地につき、被告と同土地の所有者との間の売買の仲介をし、被告が当該土地を取得した場合には、当該取得価額の三パーセントを報酬として支払う旨の合意をした。右合意に基づく報酬額は次のとおりである。

(1) 中央産業は、被告と一覧表②欄記載の所有者(以下、単に同欄の氏名のみで表示する。)渋谷ハナ(本件1土地)、長嶋藤吉(同2土地)、渡辺雪江(同3土地)、岸一雄(同4土地)、岸一郎(同5土地)、戸井田竹次郎(同6土地)、鈴木弘(同7、8土地)、岩崎照雄(同9土地)の各売買を仲介し、右売買代金額は同表⑤欄記載のとおりであり、その合計額は、九一三八万円であつたから、その報酬額は二七四万一四〇〇円である。

(2) 鈴木トキ所有の土地(本件10土地)に関しては、仮に、中央産業が、被告に同土地の売買を仲介したとしても、その報酬額は三パーセントの割合による三一万五〇〇〇円であるにすぎない。

(3) 渋谷亀雄所有の土地(本件11ないし13土地、同17ないし19土地)分については、同土地のうち、本件11ないし13土地については、仮に中央産業が被告に同土地の売買を仲介したとしても、その二分の一については被告が紛争を解決して直接購入したのであるから、中央産業の報酬額は総売買代金価額六三三五万円の二分の一の三パーセントである九五万〇二五〇円にとどまるものといわなければならない。

(4) 渋谷長吉所有の土地(本件16土地)に関する中央産業の報酬額は、売買代金価額九三〇万円の三パーセントである二七万九〇〇〇円である。

(5) 米山和彦所有の土地(本件20土地)に関する中央産業の報酬額は、売買代金二四〇〇万円の三パーセントである七二万円である。

3  仮に、本件合意解約が認められないとしても、被告は中央産業に対し、昭和四九年七月二〇日までに、本件差額代金債務又は同報酬債務の弁済として、合計一四九〇万円を支払つた。

4(一)  被告は、中央産業との間で、昭和四七年四月二七日、要旨左記の清算契約を締結した。

被告が本件買収予定地の所有者に対し、同土地の取得のため、当該土地の買収代金価額のほか、離作料その他の費用を支払つたときは、被告が中央産業に対して支払うべき売買代金差額若しくは仲介報酬額から右費用を差し引き、買収代金額及び被告の右支払額の合計額が中央産業と被告との売買代金額を超えるときは、中央産業は被告に対し、右超過額を支払う。

(二)  被告は本件各土地所有者に対し、右買収代金の外に、右清算契約に基づき、売買契約締結のために、次の費用を支払つた。

(1) 昭和四八年四月四日、米山和彦に対し、本件20土地の売却に関し、作物補償料名下に支払つた金一〇〇万円

(2) 昭和五〇年三月一五日、渋谷新平に対し、本件24土地の売却に関し、離作料名下に支払つた金九〇万円

(3) 昭和五一年五月二四日、米山巖に対し、本件25土地を買い受けるため二〇〇〇万円の支払を余儀なくされ、被告が負担せざるを得なくなつた過払分金三二〇万円

よつて、中央産業の被告に対する本件差額残代金債権から右各費用の合計五一〇万円が控除されるべきである。

5(一)  被告と中央産業とは、本件売買基本契約又は同仲介基本契約締結の際、中央産業が、昭和四七年五月末日までに、本件買収予定地のうち、少なくとも四〇〇〇坪以上の、一括して造成が可能な地形の土地で、かつ進入路を確保できるものを買収して被告に売り渡すことができないときは、本件売買基本契約の代金額を中央産業と本件買収予定地の所有者との間の買収価額まで減額し、代金差額が生じないようにする旨の特約をし、若しくは被告が中央産業に対して支払うべき仲介の報酬を支払わない旨の特約をした(以下、右特約を総称して「本件代金減額特約」という。)。

(二)  中央産業は、右期限までに、前項記載の面積の一括造成可能な土地で、進入路を確保できるものを買収することができなかつた。

6  一覧表④欄記載の各日付の翌日から五年を経過しているから、本件差額残代金債権等は時効により消滅した。

7(一)(1) 中央産業は被告に対し、昭和四七年一一月一六日、渋谷亀雄所有の小井戸五一一番、五一八番及び訴外山田文藏(以下「山田」という。)所有の同五一九番、五二〇番を、同月末日限りで売り渡し、又は売買の仲介をして、被告に右各土地を取得させる旨約した。

(2) 中央産業は被告に対し、右期限までに、右各土地の売渡し又はその仲介をすることができなかつた。

(3) 本件買収予定地は、マンション建設用地として、右各土地がマンション建設に不可欠であつたにもかかわらず、右各土地が買収ができなかつたため、マンションの設計を四階建てから三階建てに変更せざるを得なかつたのみならず、被告は、同五一一番及び五一八番を高額で買収せざるを得なかつた。したがつて、被告は、中央産業が前記売渡し又は仲介をしなかつたことにより、少なくとも三三一〇万円を下らない損害を受けたものである。

(4) 中央産業は、右(1)項記載の契約締結時、右(3)項記載の事情を知り又は知り得べきであつた。

(二)(1) 訴外株式会社双葉商事(以下「双葉商事」という。)は、原武に対し、本件21ないし23土地について、その権利を主張し、紛争が継続していたため、その解決のためには、被告は、少なくとも三〇〇万円を下らない金員の支払を余儀なくされた。

(2) 右支払は、中央産業の被告に対する本件売買基本契約上の債務不履行によるものであり、中央産業の責に帰すべきものである。

(三) よつて、被告は、本訴において、右(一)、(二)項記載の損害賠償請求権合計三六一〇万円と中央産業が被告に対して有する本件差額残代金債権又は同報酬残債権とを対当額で相殺する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項の事実は認めるが、中央産業の行つた本件各売買契約又は同各仲介契約が無効であることは争う。

2  同2項(一)及び(三)の事実は否認し、(二)の事実のうち、被告が大成プレハブからマンション建設用地として本件買収予定地の買収方を依頼されたことは認め、その余は否認する。

3  同3項の事実は、被告の弁済額が一二九〇万円である限度で認め、その余は否認する。

4(一)  同4項(一)の事実は不知。

(二)  同項(二)(1)ないし(3)の事実は否認する。被告主張の各支払いは、中央産業の被告に対する本件各土地の売買若しくは仲介とは全く関係のないものである。

5(一)  同5項(一)の事実のうち、被告主張のような代金減額特約があつたことは否認する。

本件売買基本契約には、「本覚書の期日は昭和四七年五月末日とする。」旨の記載があるが、右条項は、中央産業が本件買収予定地の所有者から売却に関し承諾を得る期限を意味するに過ぎず、被告主張のような買収又は売渡しの期限を定めたものではない。

また、同契約は、「買収面積は別記のとおりであるが、全面積一括契約が所定の期日までに困難なるときは被告が進入路を含む造成地形が可能なりと認めたる四〇〇〇坪以上をもつて契約することを可とする。」旨の記載があるが、右条項の四〇〇〇坪とは、造成可能な概ね四〇〇〇坪の土地という程度の意味であり、一応の基準に過ぎないものである。

(二)  同項(二)の事実のうち、本件売買基本契約又は同仲介基本契約締結時において、小井戸二三一番一及び二三三番二を進入路用地として確保することが予定されていたことは認め、その余は否認する。すなわち、

(1) 中央産業は、昭和四七年七月末ころまでに、本件各土地の所有者から、当該土地の売渡しにつき承諾を得ているから、本件売買基本契約又は同仲介基本契約所定の期限を徒過したものではない。

(2) 中央産業は、本件各土地合計三九三五坪を買収し、これを被告に売り渡したのであり、右基本契約に定める四〇〇〇坪には及ばなかつたものの、その不足分はわずかであるから、右基本契約に反するものではない。

6  同6項は争う。

7(一)  同7項(一)(1)、(2)の事実は認め、同(3)、(4)の事実は否認する。

(二)  同項(二)(1)の事実は否認し、(2)は争う。

(三)  同項(三)は争う。

五  再抗弁

1  (抗弁5項(本件代金減額特約)に対し)

(一) 中央産業と被告とは、本件売買基本契約締結の際、第一次的に小井戸二三一番一及び二三三番二を、第二次的に小井戸二三一番三、二三二番三、同番四、二三三番三、一一二二番五、一一二三番二、一一二五番二、一一三三番二及び一一三四番二を、進入路用地として確保することを約していた。

(二) 中央産業は、右第一次案に係る各土地を確保し得なかつたため、昭和四七年六月半ばころ、右第二次案に係る各土地の買収を行うことにしたが、地主に対する個々の知名度を利用する方が便宜であることなどから、改めて、被告との間において、同案に係る各土地の買収をそれぞれ分担することとし、前記二三三番三、一一三三番二及び一一三四番二の買収を約した。

(三) 中央産業は、右合意に基づき、右各土地を買収し、被告に売り渡した。

したがつて、中央産業は被告に対し、進入路確保につき、なんらの債務不履行もない。

2  (抗弁6項(消滅時効)に対し)

原告は被告に対し、昭和五二年六月九日到達の書面をもつて、本件差額残代金債務又は同報酬残債務の支払を催告し、同年一二月二日、本訴を提起した。

3  (抗弁7項(相殺)に対し)

(一) 中央産業は、山田に対し、小井戸五一九番及び五二〇番につき、買収方を折衝し、昭和四七年一一月ころには、同人から右買収に応ずる旨の承諾を得ていたが、被告代表者が、同人に対し、「土地をバラ線で囲んでしまう。」等の脅威的言辞を弄して同人の感情を一挙に害したため、同土地の買収ができなくなつたものであり、その責は被告に存する。

(二) 中央産業は、渋谷亀雄から、小井戸五一一番及び五一八番の買収に関して承諾を得、売買契約締結の日及び代金額も定められていたが、被告が、右契約日に、右支払代金を調達することができなかつたため、右渋谷の翻意を招き、その結果、同土地の買収ができなくなつたものであり、その責は被告に帰すべきである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1項の事実は否認する。

2  同2項の事実のうち、原告主張の催告がなされたことは不知。

3  同3項の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一中央産業が、昭和四十七、八年当時、不動産仲介、売買等を業とする株式会社であり、被告が不動産仲介等を業とする有限会社であることは、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、原告が中央産業に対し、昭和四九年四月二三日現在、既に納期限を経過した本件租税(一)債権を、また、同年一一月二五日現在においては、本件租税(一)債権のほかに、本件租税(二)債権をそれぞれ有していたこと、中央産業は、同五二年一〇月三一日までに本件租税(一)債権を納付し、同租税(二)債権の一部を納付したものの、同日現在においても、なお、別表(三)記載のとおり、本件租税(二)債権総額三七九三万九七一一円を滞納していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三原告は、昭和四七年四月二七日、中央産業と被告との間において本件売買基本契約が締結された旨主張し、被告は仲介契約が締結されたにすぎない旨抗争するので、検討する。

1  昭和四七年四月二七日、中央産業と被告との間において本件覚書が取り交されたことは当事者間に争いがない。

2  前記事実に加え、<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。

(一)  昭和四七年ころは、いわゆる土地ブームであり、茅ケ崎市においても、建築業者は土地を買い漁り、被告もまた大成プレハブ、その他の企業から用地の買収方を依頼され、本件買収予定地付近の土地を物色していたこと、

しかし、被告は、当時、本件買収予定地付近の土地所有者との面識もなかつたことから、右買収方を地元の不動産業者らに依頼していたこと、右業者のうちの訴外島本興産株式会社取締役訴外島本孝治(以下「島本」という。)が、訴外早坂不動産こと遠藤金作(以下「遠藤」という。)に対し、右買収方につき照会したところ、遠藤は、当時、同人の事務所に出入りしていた訴外斎藤靖(以下「斎藤」という。)から、中央産業の代表取締役亡渡辺祐(以下「渡辺」という。)が、本件買収予定地の約八割の土地所有者から買収に係る承諾を得ている旨の情報を得ていたため、これを島本に紹介したこと、島本が同四七年三月ころ、被告代表者に右渡辺の話を紹介したところ、被告代表者は遠藤の仲介により、渡辺と会い、同人と右土地買収の件につき協議を重ねたこと、渡辺は、被告代表者に対し、当時、同土地所有者から当該土地に係る買収承諾書を取得してはいなかつたものの、同土地の約八割の土地については早急に右承諾書を取得することができる旨述べたこと、他方被告は、同土地の所有者から土地を買収するためには、当該所有者との間に面識さえもなかつたことから、渡辺が右土地所有者の間において知名度も高いことを利用し、同人をして同土地を買収させ、更に被告がこれを買い上げることとして本件買収予定地の買収を進めることとしたこと、これは同時に被告が右土地所有者と直接売買契約を締結することから生ずるトラブルを避けるためでもあつたこと、その結果、昭和四七年四月二七日、被告、中央産業及び株式会社早坂不動産(以下「早坂不動産」という。)との間で、本件覚書が作成されたこと、

(二)  本件覚書においては、被告が中央産業から本件買収予定地を買い受ける条項が定められたが、その内容は、

第一に、本件買収予定地のうち鶴田二三一―一、二三三―二、小井戸五三二―二を除くその余の土地の代金は、三・三平方メートル当り七万円、

第二に、中央産業と被告との間の右売買契約の成立時期は中央産業が右土地所有者と売買契約を締結した時、

第三に、被告の中央産業に対する代金の支払時期は、右売買成立時に代金の六〇パーセント、その六か月後に四〇パーセントを支払う。なお、中央産業から右土地所有者に対して確実に代金が支払われるようにするため、被告が中央産業に支払うべき右代金のうちから、直接右土地所有者に中央産業の支払うべき代金相当額を支払い、残代金を中央産業に支払う、

第四に、被告が中央産業から買い受けた土地につき、中央産業は当該土地所有者から中間省略の方法によつて直接被告に所有権移転登記手続がなされることに同意する、

第五に、被告と中央産業間の本件覚書による売買契約に関し、早坂不動産が介在したが、同会社の手数料については、中央産業が被告に右土地を転売する利益のうちから措置すること、

第六に、本件覚書の期日は昭和四七年五月末日とするが、中央産業がそれまでに本件買収予定地全体についてこれを当該土地所有者から買い受けることが困難であるときは、被告が進入路を含む造成地形の可能と認めた四〇〇〇坪以上でもよいこと、

第七に、右進入路敷地として鶴田二三一番一及び二三三番二(各九九一平方メートル)が予定されたが、同地の買収には困難が伴なうことが予想されたので、被告の買受価額についても、右二三一番一は一三万円、同二三三番二は一〇万円(各三・三平方メートル当りの単価)とされ、なお、本件覚書以外の事項については、別途協議する、

ということであつたこと、

(三)  中央産業は、本件覚書締結後、本件買収予定地の買収に着手したが、右代金を二回に分けて支払うことでは地主の承諾を得ることが困難であつたことに加え、前記進入路予定地を買収するよりも、既存の農道の両側の土地(例えば、鶴田二三二番三など)を買い受け、右農道を拡幅する方が容易であることが判明したので、昭和四七年六月ころ、中央産業と被告とが協議した結果、右買収代金については、中央産業が土地所有者から土地を買い受けた都度、全額を支払うこと、進入路は右農道を拡幅すること、本件買収予定地は四〇〇〇坪以上を目途としながらも、なお、出来るだけ広範囲に買い受けるため、被告自身もまたその責任において土地所有者と直接交渉をし、これを買い受けることが出来る旨の合意がなされるとともに本件覚書の期日が猶予されたこと、そして、結局、本件覚書に基づく中央産業と被告との取引関係が少なくとも昭和四七年中は継続していたこと、

(四)  訴外岸政吉は、その所有に係る鶴田二三四番一を売却するに際し、買主は渡辺であり、同人であるからこそ右土地を売る気になつたが、売買契約書を取り交す際、被告関係者が岸宅を初めて訪れ、右登記手続関係で関与したに過ぎないものと考えていること、また、訴外渋谷新平もまた、その所有に係る鶴田二三三番三、四、茅ケ崎市茅ケ崎字居村一一三三番二、一一三四番二につき、本件買収予定地の買収の一環として、渡辺がその売却方を交渉し、被告関係者は、代金支払の際に現われただけで、渡辺に右各土地を売却したものと考えていること

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らし、たやすく措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、昭和四七年四月二七日、中央産業と被告との間において本件売買基本契約が締結されたものと認めるのが相当であり、仲介契約が締結されたにすぎない旨の被告の主張は採用することができない。

四被告は、昭和四七年六月末ころ、中央産業との間において、本件売買基本契約を合意解約したうえ、改めて、本件買収予定地につき、中央産業の仲介により、被告が当該土地を取得した場合には、当該取得価額の三パーセントを報酬として支払う合意をした旨主張するところ、<証拠>中右主張に副う部分は、証人島本孝治の反対趣旨の証言に照らし、たやすく措信することができず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  渡辺は、本件売買基本契約締結後、本件買収予定地の買収に努力したが、本件覚書に記載された昭和四七年五月末日には、大部分の土地につき買収承諾書まで取得するに至らなかつたため、被告と協議し、右買収承諾書の取得についての期限の猶予がなされ、その後も二、三度右期限の猶予がなされたが、本件売買基本契約の内容については特に変更が加えられなかつたこと、本件各土地の買収は同年六月に入つてから軌道に乗つたこと、

2  被告は、会計帳簿上においても、本件各土地の買収に関し、中央産業に対し、売買代金の三パーセントの割合による仲介料を計上したことはなく、昭和四八年五月三一日現在においても、仲介手数料名義ではあるが、本件売買基本契約に準拠した売買代金差額二六七九万二五〇〇円が計上され、同年五月期分の確定申告書にも同額の未払金が記載され、更に、同四九年に作成された会計帳簿上にも、右と同額の未払金が記帳されていること、

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告と中央産業との間において、本件売買基本契約に定められた期限の猶予がなされたことは認められるが、これを合意解約した事実は認められず、したがつて、被告の右主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用することができない。

五原告は、中央産業が被告に対し、本件各土地についての本件各売買契約に基づき本件差額残代金債権を有する旨主張するので検討する。

1  本件1ないし9、14ないし20及び24土地について

中央産業が本件1ないし9、14ないし20及び24土地につき、少なくとも、一覧表②欄記載の各土地所有者から、同表⑥欄記載の価額で買収の承諾を得たうえ、被告に対し、右各土地を、それぞれ、同表④欄記載の日に引き渡したこと及び被告が右買収に係る土地の所有者に対し、同表⑥欄記載の額に相当する金員を支払つたことは当事者間に争いがない。

右事実に加え、本件売買基本契約についての前記認定事実をも勘案すれば、中央産業が本件1ないし9、14ないし20土地につき、一覧表②欄記載の各関係所有者から同表⑥欄記載の価額で買収したうえ、被告に対し右土地を同表④欄記載の日に同表⑤欄記載の価額で売却し、これを引き渡したこと、被告が右買収に係る土地所有者に対し、同表⑥欄記載の金額に相当する金員を支払つた(なお、本件20土地の取得にあたつては、中央産業が米山和彦から代金二四〇〇万円(三・三平方メートル当り八万円)で買い受け、これを被告に対し二一〇〇万円(三・三平方メートル当り七万円)で売り渡したことから、三〇〇万円を余分に支払つている。)ものと認めるのが相当である。

また、本件24土地については、前記認定事実に加え、<証拠>によれば、昭和四七年八月一日、中央産業と渋谷新平との間において、本件24土地(九九一平方メートル)を一八〇〇万円(三・三平方メートル当り六万円)と評価し、その代替地として岸政吉所有の鶴田二三四番一(田、七九三平方メートル)を一四四〇万円(三・三平方メートル当り六万円)と評価したうえ、本件24土地と鶴田二三四番一の土地に三六〇万円を付加して等価交換する旨の契約が締結され、更に、同日中央産業は被告に対し、本件24土地を二一〇〇万円で売り渡したこと、しかし、中央産業は右岸から鶴田二三四番一を二一六〇万円(三・三平方メートル当り九万円)で買い受けざるをえなかつたため、被告は二五二〇万円を出捐し、結局、被告から中央産業に対し四二〇万円が余分に支払われたことが認められる(被告代表者の供述中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信し難く、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)。

そうすると、本件1ないし9、14ないし20及び24土地のうち、本件20及び24土地を除くその余の土地につき、中央産業は被告に対し一覧表⑦欄記載の本件差額代金債権(合計一八九二万円)を取得したものということができ、なお、本件20及び24土地の売買に関連し、中央産業は被告から同表⑦欄記載の金員(合計七二〇万円)を本件売買基本契約に基づく差額代金の支払の一環として余分に支払を受けたものであるということができる(このことは原告の自認するところでもある。)。

2  本件10ないし13、21ないし23土地について

(一)  本件10土地について

前記認定事実に加え、<証拠>を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。

(1) 双葉商事の取締役訴外楠壽美江(以下「楠」という。)は、昭和四二年ころ、鈴木トキ方を訪れ、本件10土地の買収方を交渉し、一応、同女をして右承諾書に印鑑を押捺させたが、その後、双葉商事は同女に対し、同土地の買収代金等を支払わないまま放置していたこと、

(2) 昭和四七年に至り、渡辺が鈴木トキ方を訪れ、右土地の売却方を申し込み、同女は、同年六月一八日渡辺に対し、右土地を売り渡すことを承諾すると共に、双葉商事との関係を処理することをも委ねたこと、

(3) 双葉商事は、渡辺が鈴木トキから右土地売却の承諾を得たことを察知するや、渡辺らに対し、その権利を主張したが、渡辺が双葉商事を説得し、昭和四七年七月一〇日、鈴木トキと渡辺との間において売買契約書が作成されることになり、その時点においては、双葉商事は、もはや、権利を主張しなかつたこと、

(4) 鈴木トキは渡辺に対し、右土地を代金七五〇万円(三・三平方メートル当り五万円)で中央産業に売却し、中央産業は被告に対しこれを一〇五〇万円(三・三平方メートル当り七万円)で売却したが、被告関係者が直接同女に対し、右代金七五〇万円を支払つたこと(右金員支払の事実は当事者間に争いがない。)、売買契約書は、中間省略登記手続を行うため、中央産業の承諾の下に、鈴木トキと被告を当事者として作成されたこと、

(5) その後、大成プレハブは、昭和四七年七月一二日、本件10土地につき、被告との間において売買予約を締結し、所有権移転請求権保全の仮登記(横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四七年七月一三日受付第一二九八九号)を経由したこと、この時点において、双葉商事は、何ら自己の権利を主張することはなかつたこと

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、鈴木トキは中央産業に対し、本件10土地を売却し、中央産業はこれを被告に売却し、一覧表⑦欄記載の差額代金債権三〇〇万円を有するものと認めるのが相当である。

(二)  本件11ないし13土地について

前記認定事実に加え、<証拠>を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。

(1) 楠(昭和四四年四月九日の婚姻前は岡田壽美江)は、本件11ないし13土地につき、横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四二年四月二二日受付第三六三八号同四一年五月一二日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、その後、渋谷亀雄が右各土地につき、同出張所昭和四二年六月二二日受付第五四九八号昭和四二年四月二〇日付相続を原因とする所有権移転登記を経由したこと、

(2) 双葉商事は、昭和四五年ころ、殖産住宅と取引関係があつたが、業務上預り保管中の殖産住宅の金員を費消したため、殖産住宅に対し損害賠償債務を負うに至り、右賠償債務を担保するため、右各土地についての前記所有権移転請求権を殖産住宅に譲渡し、殖産住宅は、横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四五年二月九日受付第二三一〇号同年一月三〇日付権利譲渡を原因とする所有権移転請求権の移転の付記登記を経由したこと、

(3) 昭和四七年に至り、渡辺が渋谷亀雄に対し、右各土地の売買についての交渉を重ねた結果、渋谷も、同年六月二〇日、殖産住宅の右登記の問題及び双葉商事の楠との関係を解決することを渡辺に託したうえ、右各土地の売渡しを承諾し、その旨の承諾書を作成したこと、その際、右各土地の売買代金額は一六二五万二五〇〇円(三・三平方メートル当り二万七五〇〇円)とされたこと、

(4) そこで、渡辺は、当時殖産住宅の業務を代行していた訴外殖産土地相互株式会社の営業課長の訴外広沢邦造と折衝を重ねた結果、殖産住宅も、前記双葉商事の損害賠償債務の補填として、渡辺に右登記上の権利を譲渡し、その譲渡代金をもつて弁済に充てることとしたこと、そして、昭和四七年七月、渡辺と殖産住宅との間で、右登記上の権利を一六二二万五〇〇〇円で譲渡することになり、同月一一日、被告が渡辺を介して右金員を殖産住宅に支払つたこと、被告関係者は、殖産住宅との交渉に関し、ほとんど関与することがなかつたこと、

(5) 渡辺は、右渋谷との間において、昭和四七年七月一〇日、本件11ないし13土地の代金を合計一六二五万二五〇〇円として売買契約を締結し、その際、被告は右渋谷に対し、右代金相当額を支払い(この事実は当事者間に争いがない。)、同時に、中央産業と被告との間において右各土地につき代金総額四一三七万円とする売買契約が成立したこと、

(6) 本件11ないし13土地の売渡承諾書、売買契約書及び殖産住宅との前記登記上の権利の譲渡に関する契約書において、中央産業の承諾の下に、右渋谷から被告に対し、直接移転登記をするため、その当事者は、右渋谷と被告などと表示されたこと、

(7) 殖産住宅の前記移転登記請求権保全の仮登記は、昭和四七年七月一三日受付第一二九八三号同年七月一一日解除を原因として抹消されたうえ、大成プレハブは、横浜地方法務局茅ケ崎出張所同年七月一三日受付第一二九八四号同年七月一二日売買予約を原因とする仮登記を経由したこと、その当時、双葉商事又は楠から、大成プレハブ又は被告に対し、右各土地につき、特に訴訟の提起その他の紛争が生じなかつたこと

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、中央産業は、昭和四七年七月一〇日、右渋谷から本件11ないし13土地を買い受け、同日これを被告に代金総額四一三七万円で売却したが、右金員のうち被告が右渋谷に支払つた一六二五万二五〇〇円及び殖産住宅に支払つた一六二五万二五〇〇円は中央産業において右各土地を自ら取得するために、右渋谷及び殖産住宅との直接の契約に基づいて負担した債務の弁済にあたるから(原告もこれを自認している。)、これを控除した本件11ないし13土地に係る⑦欄記載の八八九万二五〇〇円につき、中央産業は被告に対し差額代金債権を有するものと認めるのが相当である。

(三)  本件21ないし23土地について

前記認定事実に加え、<証拠>を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

(1) 本件21土地について

(ア) 双葉商事は、昭和四一年一一月一三日、原武(以下「原」という。)との間において、本件21土地につき、代金一四二万五〇〇〇円で買い受け、手付金四七万五〇〇〇円を交付したこと、その後、同商事は原に対し、右売買代金の残額を支払わなかつたので、原は双葉商事に対し、右売買契約を解除する旨通知したが、双葉商事がこれに応じなかつたこと、双葉商事は、当時土地ブームに便乗し、本件買収予定地その他の土地の買収方に奔走し、少額の手付金を交付しては、売買契約を締結したと称してその権利を主張し、残代金の支払をしないため、双葉商事の買収に係る土地については紛争が多かつたこと、

(イ) 昭和四七年に至り、渡辺が原に対し本件21土地の買収方を申し込み、原も双葉商事との間の売買が解除されたものとして、右土地を中央産業に売却することを承諾したこと、しかし、双葉商事は原と中央産業との間の売買を察知し、原に対して異議を述べたこと、中央産業は同四七年一〇月二九日、原との間で、本件21土地につき双葉商事との間の前記紛争を解決することを託されたうえ、右土地と共に、本件22、23土地をも買い受けたこと、右三筆の土地の代金は七〇〇万円であつたが、右売買契約締結の際、原は渡辺に対し、本件21土地の紛争解決のための資金として右代金七〇〇万円のうち、一〇〇万円を交付し、渡辺は右金額で解決することを約束したため、契約書上は代金額は六〇〇万円と表示されたこと(甲第一七号証)、

(ウ) 渡辺は、双葉商事と右紛争に関する折衝を続け、昭和四七年一〇月ころまでには、双葉商事に対し一三〇万円を支払い、双葉商事は本件21土地については権利を主張しない旨の話合いが成立したこと、

(エ) 中央産業は、昭和四七年一〇月二九日、被告から本件21ないし23土地の原に対する売買代金相当額七〇〇万円の交付を受け、原との間で右各土地につき、同月二九日付売買契約書を作成し、更に被告との間で同年一一月六日付売買契約書を作成し、被告が右各土地につき仮登記を経由するに必要な書面を整えたこと、被告は、右各書面を使用して、右各土地につき、横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四七年一一月六日受付第二〇七〇五号右同日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、

(オ) ところが、双葉商事は、昭和四七年一一月七日に至り、横浜地方裁判所に対し、原を債務者として、本件21土地につき処分禁止の仮処分を申し立て、これが仮処分決定がなされ、横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四七年一一月七日受付第二〇八四四号右同日付横浜地方裁判所仮処分を原因とする登記がなされたこと、右仮処分登記は、同出張所昭和五〇年七月二四日受付第一三六二五号同月二二日取消決定を原因とする抹消登記により抹消されていること、ところが、双葉商事は、再び昭和五一年八月ころ、右土地につき横浜地方裁判所に対し、原を債務者として仮処分の申し立て(昭和五一年(ヨ)第七一八号仮処分申請事件)をし、同裁判所は同月二日、これが仮処分決定をしたこと、

(カ) 被告は、本件21土地に対する右二度の仮処分において、大成プレハブに対して右土地を引渡すことができなくなることなどをおそれ、双葉商事に対し、第一回目の仮処分に関しては約三〇万円、第二回目の仮処分については、昭和五一年九月二八日、五〇万円を支払つて、示談をまとめたこと、なお、この間、双葉商事は、原を被告として、昭和四八年三月、横浜地方裁判所に対し、右土地の二重売買に基づく損害賠償請求訴訟(横浜地方裁判所昭和四八年(ワ)第三〇四号損害賠償請求事件)を提起したが、同事件は、最終的には、昭和五八年七月二八日、原が双葉商事に対し、三三〇万円を支払うことで和解が成立したこと、しかし、右和解金のうち二〇〇万円は被告が早期解決のためこれを負担し、その余は原が負担したこと、

(2) 本件22、23土地について

(ア) 双葉商事は、昭和四一年五月ころ、原との間で、本件22、23土地につき代金を五四三万円として買い受け、手付金として一〇万円を交付したが、その後、原に対し、同年一〇月二五日、一五七万五〇〇〇円、同四二年一一月一七日、一〇〇万円、同四三年六月三日、一五〇万円、合計四〇七万五〇〇〇円を支払つたものの、残金一二五万五〇〇〇円の支払をしなかつたため、原は同四五年四月ころ、双葉商事に対し、書面をもつてその履行を催告し、不履行の場合には解除する旨の意思表示をしたが、双葉商事はこれに応じなかつたこと、

(イ) しかし、双葉商事は、訴外遠藤嘉行、同清水幸作、同田辺光一(以下、右三名を総称して「清水ら」という。)から金融を受けるため、本件22、23土地を担保に供し、清水らの持分をそれぞれ三分の一とする所有権移転請求権保全の仮登記(横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四二年四月二八日受付第三八一二号昭和四二年二月二一日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記)が経由されたこと、清水らは、昭和四五年七月ころ、藤沢簡易裁判所に原を債務者として処分禁止の仮処分を申し立てたこと(藤沢簡易裁判所昭和四五年(ト)第一七号不動産仮処分事件)、同裁判所は、右申立に係る仮処分決定をし、右各土地につき仮処分の登記(横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四五年七月一〇日受付第一二四四四号昭和四五年七月九日藤沢簡易裁判所仮処分を原因とする登記)が経由されたこと、更に、清水らは、本案訴訟として、原を被告として、右各土地につき右仮登記に基づく本登記手続請求訴訟(横浜地方裁判所昭和四五年(ワ)第二〇四二号事件)を提起したこと、

(ウ) 中央産業は、清水らとの間において、本件22、23土地についての折衝を重ねた結果、昭和四七年一一月八日、中央産業が清水らから、同人らの有する右仮登記に係る権利を代金一二〇〇万円で譲り受けたうえ、右同日、右譲受けに係る権利を被告に譲渡することとし、被告が中央産業に対し、右金員を交付し、中央産業が清水らにこれを支払つたこと、したがつて、右仮処分登記は、横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四七年一一月七日受付第二〇七八三号昭和四七年一一月一日取下を原因とする抹消登記手続がなされ、右仮登記は、同出張所昭和四七年一一月八日受付第二〇九六八号昭和四六年七月一日解約を原因とする抹消登記手続がなされたこと、右仮登記に基づく本登記手続請求事件もまた、同月一六日、取下により終了したこと、

(エ) 被告は、昭和四七年一一月六日付をもつて、本件22、23土地につき、所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、同月二一日、大成プレハブに対し、右各土地を売却し、大成プレハブは右各土地につき所有権移転請求権保全の仮登記の附記登記(横浜地方法務局茅ケ崎出張所昭和四七年一一月二二日受付第二一九八二号昭和四七年一一月二一日売買を原因とする右附記登記)を経由したこと

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らしてたやすく措信し難く、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告は双葉商事に対し、本件21土地の紛争解決のために示談金を支払つているが、右紛争は中央産業が双葉商事との間において一旦解決済みの問題であるにも拘らず、被告の取引上の都合から、中央産業とは関わりなく、その一存で出捐したものと認めるのが相当であり、また、本件22、23土地上の清水らの担保権を中央産業が取得するために要した一二〇〇万円は、中央産業が被告に対し右土地を売却するために、清水らとの契約に基づいて中央産業が自ら負担した債務であると認めるのが相当である。

そうすると、中央産業は被告に対し、昭和四七年一〇月二九日、本件21ないし23土地の売買契約に基づき、右各土地の売買代金(合計二九六八万円)から一覧表⑤欄記載の売買代金七〇〇万円及び右担保取得代金一二〇〇万円を控除(担保取得代金一二〇〇万円が控除されるべきであることは原告も自認している。)した一〇六八万円の差額代金債権を有したものということができる。

3  以上のとおりであるから、中央産業は被告に対し、本件1ないし19、21ないし23各土地の差額代金債権合計四一四九万二五〇〇円を取得したが、被告から中央産業に対し、本件売買基本契約に基づく代金債務の支払の一環として七二〇万円の過払分があるものということができるところ、更に、少なくとも、右差額代金債務の弁済として、被告から中央産業に対し一二九〇万円の支払がなされていることは当事者間に争いがない。

そうすると、中央産業は被告に対し、本件1ないし24土地の売買契約に基づく差額残代金債権として合計二一三九万二五〇〇円の残代金債権を有するものということができる。そして、これが本件各土地のうちのいずれの売買契約に関わるかについては、前記弁済金合計二〇一〇万円についての弁済の充当が必ずしも明らかではないが、原告もまた差額残代金の元本債務に充当されるべきことを自認しているといえるから、本件各土地の差額代金債権の弁済期の前後に従つて充当することが妥当であるといわざるをえない。したがつて、右弁済金二〇一〇万円は本件1ないし10土地の差額代金債務合計一五六六万円全額及び本件11ないし13土地の差額代金債務八八九万二五〇〇円のうちの四四四万円の各弁済に充当されたものと解するのが相当であるから、中央産業は被告に対し、本件11ないし13土地の差額残代金債権及び本件14ないし19、21ないし23土地の差額代金債権合計二一三九万二五〇〇円を有しているものといわざるをえない。

六被告は、昭和四十七、八年当時、中央産業は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)三条所定の建設大臣又は都道府県知事の免許を受けずに業として本件各土地の売買を行つたものであるから、公序良俗に反し無効である旨主張するところ、中央産業が昭和四十七、八年ころ、同法三条所定の免許を受けずに本件各土地の売買を行つたことは当事者間に争いがない。

ところで、宅建業法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とし(一条)、宅地建物取引業(二条二号)を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に事務所を設置してその事業を営もうとする場合には建設大臣の、一の都道府県の区域内の事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならないものとし(三条一項)、右免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない(一二条一項)と定め、一二条一項の規定に違反した者は三年以下の懲役若しくは五〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨定めている(七九条二号)ところ、「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅建業法二条二号所定の行為、すなわち宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為をなすことをいうものと解される(昭和四九年一二月一六日第二小法廷決定・刑集二八巻一〇号八三三頁参照)から、右規定の趣旨は、主として行政取締の必要上免許を得ないでかかる行為を営業としてなすことを規制し、刑罰によつてこれを防止しようとしたに止まるのであつて、何人も非営業としてこれをなすことまで同法は禁止していないし、また、営業としてこれをなした場合でもその行為自体の私法上の効力まで失わしめるものではないと解するのが相当である。

そうすると、被告の前記主張は失当であり、採用することができない。

七被告は、中央産業との間において、本件売買基本契約締結の際、中央産業が、昭和四七年五月末日までに本件買収予定地のうち少なくとも四〇〇〇坪以上の、一括して造成が可能な地形の土地で、かつ進入路を確保できるものを買収して被告に売り渡すことができないときは、本件売買基本契約の代金額を中央産業と本件買収予定地の土地所有者との間の買収価額まで減額し、代金差額が生じないものとすることの約定がなされた旨主張するが、本件売買基本契約が昭和四七年五月末日後も継続して存続したことは前記認定のとおりであるから、被告の右主張はその余の点については判断するまでもなく、採用することができない。

八被告は、中央産業との間において、昭和四七年四月二七日被告が本件買収予定地の所有者に対し、同土地取得のため、当該土地の買収代金額のほか、離作料その他の費用を支払つたときは、被告が中央産業に対して支払うべき売買代金の差額から右費用を差し引き、また、被告の支払つた右買収代金額と費用の合計額が被告の中央産業に支払うべき売買代金額を超えるときは、中央産業が右超過額を負担する旨の清算契約が締結された旨主張するが、前記認定事実によれば、本件売買基本契約においては、中央産業が本件買収予定地の買収にあたり、土地所有者との間の売買契約等に基づいて負担した売買代金及びその他の費用については、中央産業がこれを支払う責任のあることは明らかであるが、被告が中央産業とは関わりなく、右土地所有者と直接約定した金員の支払についても、これを全部中央産業の負担とする旨の清算契約が締結されたものとまでは断定しがたい。

そこで、被告主張の本件20土地についての作物補償料一〇〇万円、本件24土地についての離作料九〇万円及び本件25土地についての過払分三二〇万円の支払が中央産業と同土地所有者との契約に基づいて中央産業の負担した債務の支払であるか否かについて検討する。

1  本件20土地の作物補償料について

中央産業が米山和彦所有の本件20土地(九九一平方メートル)を二四〇〇万円(三・三平方メートル当り八万円)で買い受け、これを昭和四七年一一月六日被告に売り渡し、同日被告が右米山に支払つた売買代金のうち三〇〇万円(三・三平方メートル当り一万円)は中央産業が米山との右売買契約に基づく債務として同会社の負担すべきものであることは前記説示のとおりであるところ、右事実に加え、<証拠>によれば、米山和彦は本件20土地を売却した後、その代替地として、同地よりも面積が広く、場所的にも良好な土地(四二〇坪余)を代金四〇二〇万円位で買い受けたところ、同人は被告に対し、前記売買代金の上乗せを要求したので、被告は、昭和四八年四月四日、右要求がごね得とは承知しながらも、中央産業とは関わりなく、被告の一存で右米山に対し、作物補償料の名目で一〇〇万円を支払つたことが認められ、証人米山和彦及び被告代表者の各供述部分中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告の右米山に対する一〇〇万円の支払は、中央産業が右米山との売買契約に基づいて負担した債務の支払ではなく、右支払は中央産業と関わりなく被告の一存でこれをなしたものということができるから、右支払が中央産業の負担すべきものであるとまでは認めることができない。

2  本件24土地の離作料について

<証拠>によれば、被告は、昭和四七年一一月一日、渋谷新平に対し、本件24土地取得の対価の一部として三六〇万円を支払つたが、被告の事情によつて、右渋谷が右土地の譲渡に係る譲渡所得の申告につき、昭和四七年分として申告することができず、その間に、税率が五パーセント上昇したことから、右渋谷が被告に対し、直接、右税率の上昇分に相当する金額九〇万円の支払を求め、その結果、被告は、同五〇年三月一五日、補償料ないし離作料の名目で、右上昇分九〇万円を右渋谷に支払つたことが認められ、被告代表者の供述中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告の右渋谷に対する九〇万円の支払は、中央産業が右渋谷との売買契約に基づいて負担した債務の支払ではなく、右支払は中央産業とは一切関わりなくなされたものということができるから、右支払が中央産業の負担すべきものであるとまでは認めることができない。

3  本件25土地の過払分について

<証拠>を総合すれば、中央産業は昭和四七年六月一五日、米山巖から本件25土地(七三八平方メートル)の売り渡しの承諾を得、同年九月七日同人との間において、右土地の価額を一二〇〇万円(三・三平方メートル当り五万円)として売買契約を締結し、更にこれを被告に対し代金一六八〇万円(三・三平方メートル当り七万円)で売却し、右米山から被告に直接代金一二〇〇万円で売り渡した旨の契約書が作成されたこと、しかし右売買契約には、中央産業が小井戸五三〇番を取得し、これを等価交換する旨の特約が存したこと、中央産業は渋谷新平から右五三〇番を買い受けて同年九月一日右米山に提供したこと、ところが、同土地につき、右渋谷と渡辺善との間においてその所有権の帰属について紛争が生じたことから、同四八年一〇月八日、右米山と中央産業、中央産業と被告との間の本件25土地についての売買契約が合意解除されたこと、その後、同五一年五月二四日、被告と右米山との間において、中央産業とは関わりなく、本件25土地につき、同四七年九月七日の前記売買契約が有効に存続するものとしたうえ、右売買代金を二〇〇〇万円に改訂する旨の合意をしたことが認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告と右米山との間の本件25土地を代金二〇〇〇万円で売買する旨の契約は、中央産業とは関わりなくなされたものということができるから、右代金額が合意解除された中央産業と被告間の売買契約に基づく代金一六八〇万円を超えたからといつて、その差額を直ちに中央産業に負担させることは相当ではないものといわざるをえない。

九被告は、中央産業に対し、昭和四九年七月二〇日までの間に、本件差額代金債務の弁済として、前記説示の一二九〇万円のほか二〇〇万円合計一四九〇万円を支払つた旨主張するので判断する。

被告が中央産業に対し、昭和四七年七月二〇日までに、本件差額代金債務の弁済として、合計一二九〇万円を支払つたことは当事者間に争いがなく(この分については前記説示のとおり本件差額代金から控除されている。)、右争いのない事実に加え、<証拠>を総合すれば、昭和四九年三月、大森税務署係官が被告に対して行つた課税調査の際、被告が提出した被告の中央産業関係の本件各土地に係る計算書(甲第九号証)の二丁目中段に「支払済合計」として「一二、九〇〇、〇〇〇」と記載されていることが認められるところ、乙第四一号証、第四五号証の記載及び被告代表者の供述中、被告が昭和四九年七月二〇日付で中央産業に対し二〇〇万円を支払つた旨の部分は、成立に争いのない甲第四号証によれば、原告が昭和四九年四月二三日、中央産業に対する本件租税(一)債権に基づき、本件差額残代金債権を差押え、同日被告が右差押通知書を受領したことが認められることに照らし、被告が中央産業に対し、右差押にもかかわらず、本件差額代金のうち二〇〇万円を支払うことは到底信じ難いから、右記載及び供述部分は措信することができず、その他に被告が中央産業に対し、一二九〇万円のほか、本件差額代金について直接二〇〇万円を弁済したことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告の二〇〇万円を弁済した旨の前記主張は採用することができない。

一〇被告は、一覧表④欄記載の各日付の翌日から五年を経過しているから、本件差額残代金債権は時効により消滅した旨主張し、原告は、右時効は中断している旨主張するので判断する。

<証拠>によれば、大森税務署長が昭和四九年四月二三日、本件租税(一)債権に基づき、また同年一一月二五日、本件租税(一)、(二)債権に基づき、中央産業が被告に対して有する本件差額代金債権を差押え、右二回目の差押通知書は同月二七日被告に送達されたこと、中央産業は同五二年三月一五日、本件租税(一)債権を納付し、同租税(二)債権の一部を納付したものの、なお、別表(三)記載のとおり、本件租税(二)債権を滞納していたため、東京国税局長は、被告に対し、同五二年六月八日、本件差額代金債権の履行を書面で催告し、同書面が同月九日被告に到達したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠がないところ、本訴が当裁判所に対し、昭和五二年一二月二日に提起されたことは記録上明らかである。

そうすると、原告は被告に対し、一覧表④欄記載の各契約の成立(特に、本件11ないし13土地に係る昭和四七年七月一〇日以降)の日の翌日から五年以内である同五二年六月八日に本件差額代金債権の履行を催告し、これが到達した同月九日から六か月以内である同年一二月二日に本訴を提起したことになるから、本件差額残代金債権の消滅時効は民法第一四七条一号、第一五三条の規定により中断されていることは明らかであり、被告の右主張は採用することができない。

一一被告は、中央産業が被告に対し、昭和四七年一一月一六日、渋谷亀雄所有の小井戸五一一番、五一八番及び山田所有の同所五一九番、五二〇番(以下、いずれも地番のみを表示する。)を同月末日限りで売り渡し、被告に右各土地を取得させることを約したにもかかわらず、右期限までに右各土地の売渡しができず、五一九番、五二〇番の両土地が取得できないことによりマンションの建築設計が四階建から三階建になり、また五一一番、五一八番を高額で取得せざるをえなくなり、被告は、その結果、少くとも三三一〇万円の損害を被り、また、原武所有の本件21ないし23土地につき、双葉商事がその権利を主張して紛争が継続したため、その解決のために三〇〇万円を下らない金員の支払を余儀なくされたところ、右金員の支払は、中央産業の被告に対する本件売買基本契約上の債務不履行に基づくものであるとして、右各損害賠償請求権と本件差額残代金債権を対当額で相殺する旨主張するので判断する。

1  渋谷亀雄及び山田の各所有に係る土地について

中央産業が被告に対し、昭和四七年一一月一六日、渋谷亀雄所有に係る五一一番、五一八番及び山田所有に係る五一九番、五二〇番を、同月末日限りで売り渡し、被告に右各土地を取得させる旨約したが、被告に対し右期日までに右各土地を売り渡すことができなかつたことは当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。

渋谷亀雄は中央産業に対し、当初五一一番、五一八番の売却を渋つていたが、中央産業が同人を温泉に招待するなどして説得した結果、中央産業は、昭和四七年一一月三〇日ころ、右渋谷から右各土地の売渡承諾書を得たこと、そこで、中央産業は被告に対し、右両土地について、同年一二月二日ころ、売買契約を締結したい旨申し入れ、被告も右代金を準備する旨回答し、右渋谷もまた印鑑証明書等を用意したこと、しかし、右売買契約締結日の当日になり、被告が右資金を調達することができなかつたことから、右渋谷の翻意を招くに至り、中央産業は同人から右両土地を買い受けることができなくなつたこと、その後、被告が右渋谷と右各土地買収交渉を続け、同四八年八月七日、右五一一番七〇〇・八平方メートル及び五一八番九九一平方メートルを売買代金総額六九〇〇万円(三・三平方メートル当り一三万円余)で買い受けるに至つたこと

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らしてたやすく措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、中央産業が右渋谷から右両土地を買い受け、これを被告に売り渡すことができなかつたからといつて、中央産業に債務不履行の責任があるとまでは断定することができない。

3  <証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。

中央産業は、昭和四七年六月ころから山田と同人所有の五一九番、五二〇番の売買についての交渉をしたが、同人は両土地の売買に難色を示したこと、しかし、同人もまた、右両土地の周囲の土地が中央産業に、次いで被告らに買い取られて宅地造成がなされることを知り、中央産業の説得に応ずることに傾き、代替地を確保して同地に鉄筋コンクリートの建物を建築することを考え始めたこと、そこで、中央産業は、被告とも協議し、被告に右建築計画案等を作成してもらうなどして山田との交渉を重ねていたところ、同四七年一一月末日も経過したこと、そこで、被告側が山田に対し、右両土地を売らないと、被告はその周りに全部バラ線を張つて、土で埋めてしまうから、同土地はどぶ田になつてしまうなどと述べて右両土地の売却方を強要したことから、山田は激怒し、中央産業に対する右両土地の売却を拒否することになり、その結果、中央産業としても被告にこれを売り渡すことが不可能となつたこと、そして、それのみではなく、山田は被告の右のような態度に業をにやし、被告に対し、右周囲の土地の盛土整地及び同地上への建築物の建築などについても異議を述べるようになり、被告にとつては最悪の事態となつたこと、そこで、同五〇年七月一一日、被告は、大成プレハブと共に、山田との間において、覚書と題する書面を作成したこと、同書面には、五一九番及び五二〇番につき、その南側の建築物の階数は三とし、両土地の南側の敷地境界線から建築物の外壁中心線までの水平距離を、道路を含めて一七・一五メートルとし、建築物が両土地に対してもたらす日影は、その南側敷地境界線より北側に水平距離で五メートルとし、ただし、右五メートルの値は、冬至の午後二時を基準とし、許容誤差はプラスマイナス五パーセントとする。また、大成プレハブ及び被告の開発行為に伴なう山田の道路提供は九〇・七七平方メートルとし、三・三平方メートル当り一九万四〇〇〇円を山田に支払い、大成プレハブ及び被告は、両土地につき二二九〇立方メートルの盛土をする旨記載されていること

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信し難く、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告及び大成プレハブの五一九番、五二〇番の隣接地上へのマンションの建築計画が四階建から三階建に変更されるに至つたとしても、それは、中央産業ではなく、むしろ被告の暴言によつて招来されたものと認めるのが相当である。

そうすると、仮に、被告において右マンションの設計変更等によつて損害を被つたとしても、それは被告の責めに帰すべき事由によるものといわざるをえない。

4  原武所有の本件21ないし23土地について

被告が、原武所有の本件21ないし23土地について、双葉商事との間の紛争を解決するため、少くとも三〇〇万円を下らない損害を被つた旨主張するが、本件21土地についての紛争は、中央産業において双葉商事に対して金員を交付して一旦解決した問題であるにもかかわらず、被告の取引上の都合から中央産業とは関わりなくその一存で出捐したものであるから被告の負担に帰すべきものであり、また、本件22、23土地についての紛争は、同地に設定された清水らの担保権に関わる問題であつて、結局、中央産業の負担において取得し、解決したものであることは前記説示のとおりであるから、中央産業に債務不履行責任があるとまでは断定し難い。

5  したがつて、被告の前記相殺についての主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用することができない。

一二原告が、昭和四九年一一月二五日、本件租税(一)、(二)債権に基づき、中央産業が被告に対して有する本件差額代金債権を差し押え、右差押通知書は同月二七日被告に送達されたことは前記認定のとおりであるから、原告は、右差押通知書の到達により、本件差額残代金債権の取立権を取得したものということができる。

そうすると、被告は原告に対し本件11ないし19、21ないし23土地についての一覧表⑦欄記載の本件差額残代金債権合計二一三九万二五〇〇円(ただし、本件11ないし13土地の分は四四五万二五〇〇円)及びこれに対する右差押通知書が送達された日の翌日である昭和四九年一一月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわざるをえない。

一三よつて、原告の本訴請求はその余の点については判断するまでもなく理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古館清吾 裁判官澁川滿、裁判官足立謙三はいずれも転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官古館清吾)

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